ソライト

自然や旅、キャンプやアウトドアに関する事などについて、自分が感じたことや思った事などについて書いています。

【短編小説】 俺のソロキャンプ『後編』

キャンプ(今回は、下の記事の続きになります。)

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「※この話は、どこにでも居るごく普通の中年男性が、キャンプ中に若い男女と出会った話。(フィクションです。)」

 

【短編小説】 俺のソロキャンプ『後編』

・・・・・前回からの続き・・・・・

 キャンプ飯のステーキは申し分なく最高においしかった。

最高のキャンプ飯も堪能したので、この後はゆっくりとコーヒーを飲みながら、星を眺めようかなと考えている。

すると、、、。

男女二人:「あのぉ、すいませ〜ん」

年の頃は二十歳ぐらいか、若い男女が俺に話しかけてきた。

男性の方が「焚き火台」を持ち、少し困った様子で尋ねてきたので大体の予想はついたが、、、。

俺:「んっ、どうしました?」

男性:「いやっ、そのぉ、いざ焚き火をしようと思ったら「薪」を忘れてて、、、。火がないと料理も作れなくて少し困ってて、、、。」

これはもう、俺の火が着いている「薪」を分けて欲しいんだなぁと思って

俺:「あーっ! 良かったら焚き火分けるよー、全然使って!」

男女:「本当ですかぁ!? ありがとうございます!!」

俺自身、この男女と同じくらいの年齢になる息子と娘が居るので、素っ気無くもできず、喜んで焚き火を分けてあげた。 なんかいろいろ気になったので、少し話を聞いてみると、どうやらこの男女は「カップル」でまだ付き合って半年程。

今回は、彼の趣味でもあるキャンプをしに来たけど、彼自身キャンプをしたのは数回程度で、テントとかは比較的スムーズに立てたけど、火起こしが少し自信がなく、今回もうまくいくか半ば不安を抱えながらキャンプに挑んだ、そしていざ焚き火をしようと思ったら、火起こしの心配の前に、薪を忘れている事にこのとき気づいて困っていたと。

そしたらこのキャンプ場に何人か居るキャンパーの内、俺のところが一際、焚き火が明るく、焚き火も煌々と燃えていたので、もしかしたら火の着いた薪を分けてくれるかなぁと思い、俺に声をかけてきたらしい。

その話を聞いて、「俺にもそんな過去」があったなぁと思い出して、俄然ほっとけなくなった。

彼女の方は今回が初めてのキャンプだと言う事で、キャンプについては全くの素人、今回のキャンプもほとんど彼がしてくれてるとのことで任せっきりにしてたらしい。

そして俺は、燃えている薪をいくつか分けてあげた。
カップルはホッとした様子で、「ありがとうございます!」と言い、自分達のテントへ戻っていった。

嬉しそうに戻っていくカップルを見て、こちらまで嬉しくなるとと共に自分自身の過去を思い出していた。

 

・・・・・

 今から20年以上前の話しになるけど、ある日、今の妻(当時は彼女)とキャンプに行く事になった。 さっきのカップルと違うのは「俺と妻、2人ともが初めてのキャンプ」だと言う事。

けど、持ち前の器用さでテント設営や焚き火を着けるのは、なんとかうまくいった。 、、、だけど、料理を作る時に気づいた事があって、まさかの”フライパン”をはじめとする調理器具を持ってくるのをすっかり忘れていた。

しかもさっきまで晴れだったが突然の雨が降ってきて、ついていた焚き火が消える始末。 タープを張っていなかったので、焚き火の雨除けもできなかったのだ。

けど、通り雨だった様子で幸か否か、数分したら天気は回復した。 、、、が焚き火はサッパリと消えているし、キャンプギアは濡れているしで妻と共にガッカリしていた。

すると、その様子を見かねてか、少し離れている所に居た、おそらく「玄人キャンパーのおじさん」が、何も言わず、これを使えと言わんばかりに「薪」とフライパンをはじめとする「調理器具」を差し出してきた。

僕たち2人は呆気に取られながらも、コクリと一礼し受け取った。おじさんは去り際になんとも言えない哀愁のある笑顔を見せて自分のテントに戻って行った。

あまりのさり気なささと、そのおじさんのオーラに圧倒されて、しっかりとお礼が言えなかったので後からちゃんとお礼を言いに行く事にした。

そのおじさんが「薪と調理器具」を持って来てくれたおかげもあってその場はなんとか過ごせた。

そしてひと段落したので、お礼を言いに行こうと、そのおじさんの所に行ったが、夜も深まっていたためか、すでに眠っていた様子。

今、起こしてまでお礼を言うのも悪いなと思ったので、明日の朝になったらお礼を言おうと思い、僕たちもその日は眠る事にした。

そして朝になり、返しに行こうとおじさんの所に向かったが、その時にはそのおじさんは居なかった。

2人とも顔を合わせて、「ありゃりゃ」と言う感じに。 結局、調理器具を返しそびれた上に、ちゃんとお礼も言えず終い。 心残りがあったがそのおじさんの優しさが、今もなお俺の心の中にちゃんと残っていて、俺自身も「俺と妻」のように困っている人が居たら必ず助けようと心に決めていた。

・・・・・

 、、、そして、時が経った今日、俺もあの時のおじさんの年齢と同じくらいになった時に、さっきのカップルが、まるであの日の俺と妻に見えたのは言うまでもない。

そんな昔にあった懐かしい思い出に浸っていると、先ほどの男性が苦笑いを浮かべながら困った様子で、また俺のところに戻ってきた。

男性:「すみません、、、。やってしまいましたぁ、、、。」

俺:「どうしたの?、、、(まさか???)(笑)」

男性:「食材を焼いたりするための、鉄板とか網を忘れてましたぁ(笑)」

男性と俺:「!!!(笑笑)!!!」

もう、昔の俺を見ているようで、その時には他人と言う壁は同じキャンパーと言うこともあってか、なくなっていた。

俺:「あれ?彼女さんは?」

男性:「いやぁ、さすがに忘れたとは言えず、さっきチラッと見えた、その、、、”フライパン”を貸してくれないかなぁと思い、、、。」

少しこの子、図々しいかなぁ(笑)と思いつつも、実は今日、さっきの話に出てきたおじさんに、借りっぱなしになっていた調理器具の内の”フライパン”を持ってきていたのだ。

いつか返そうと思いつつ、たまに使ってはいたが、ちゃんと焼きなおしなどの手入れもしていたので、今でもちゃんと使えている。

おそらくもう30年物ぐらいだと思う。 それを貸して欲しいと言われたので、少し「うっ、、、。」っとなったが、もしあの時のおじさんだったら貸していたよなぁと思い、快く貸してあげた。

そうすると喜んでくれた男性が、「お礼と言ってはなんですが、僕が料理を作るので良かったら一緒に食べませんか?」と言ってきた。

少しゆっくりしたい気もあったが、こうゆうこともあまり無いだろうし、良い機会なので快諾した。

男性:「じゃあ、彼女を連れて、こっちに焚き火台や食材を持って来ますね。」

俺:「はいよ〜」

最近は「息子と娘」に会えていないので、実際に息子と娘に料理を作って貰うみたいで嬉しくなった。 焚き火台や食材を持って来た2人がやって来て、彼の方をよく見ると、何か年代物と言うか、普通では使われていなさそうな包丁などを持っていた。

少し気になりながらも、彼が全部用意してくれると言うので見ていると、着々と料理の準備を進めて行く彼の手捌きが見事だった。

俺の心の声:「なんか思ったのと違う!」

と思い、勝手にまた失敗とかしながら作るもんだと思っていたのに、段取りや食材の切り方がまぁ見事で驚いた!

俺:「なんか良い手捌きだけど、料理関係の仕事かなんかしているの?」

と、気になったので思わず聞いてみた。

男性:「あっ、ありがとうございます(照) 一応、「じいちゃん」の代から続いている普通の定食屋なんですけど、今は自分の親と切り盛りしているんです。」

俺:「あーなるほど! どおりで手際が良いわけだ!」

彼はどんどん作業を進めていく、手慣れた感じで野菜や肉を切っていき、そして貸してあげたフライパンを勢いよく振って野菜や肉を焼いていく。

俺:「しかし、彼女さんは料理ができる彼で嬉しいでしょう?」

女性:「はい、でも本当は私からも料理を作ってあげたいんですけど、彼の方が断然上手なので、料理も任せっきりなんです。(笑)」

男性:「いやでも今の時代、女性だけが料理をするのも違うと思いますし、その他の「家事」とかをしてくれてるし、何より僕がなんでも忘れっぽいので、その辺りのサポートを彼女がちゃんとしてくれているので、とても感謝しています。」

俺:「良いねぇ、なんか幸せを分けてもらっているみたいだよ。   、、、え? と言うかもう同棲かなんかしているの? まだ付き合って半年ぐらいでしょ?」

男性:「まぁ、つい最近からですけど。(照れ)」

最近の子達は早いんだなぁと感心していると、良い匂いがしてきた、どうやら料理が完成したようだ。

男性:「よしっ出来た。 簡単なもんですけど、食べてみてください。(笑)」

すると、定食屋ならではの「生姜焼き」が出てきた。

俺:「ははははっ(笑)まさかキャンプ場で生姜焼きを食べるとは思わなかったよ。」

でも、さすが定食屋の息子だけあっておいしい!

キャンプ場で食べる生姜焼きもいいもんだなぁと思い、俺のキャンプ飯のリストの一つに加わったのは言うまでもなかった。

男性:「でも、いつも使っている"フライパン"と同じ種類だったので、とても使いやすかったです。うちの定食屋もこのフライパンと同じ「タークのフライパン」なんですよ。確か創業当時、じいちゃんが使い始めたみたいでその頃からうちはタークのフライパンを使ってて、、、。」

俺の心の声:「、、、もしかして、このフライパン、彼のおじいさん、、、。あの時のおじいさんの??? 、、、なぁぁぁわけないか!!!」

、、、ガヤガヤッ、、、ガヤガヤ

その後も、「俺と若いカップル」の楽しい夜、彼の作る料理をつまみにお酒を飲んだりと、楽しいキャンプの夜は続いた、、、。

楽しく、食べたり飲んだりしているうちに、夜も深まって来て周りのキャンパーさん達も寝る準備をし始めたので、そろそろ終わることにした。

俺:「じゃあ、そろそろお開きにしようか。」

男性:「あっ、もうこんな時間か、そうですね、そろそろ、、、。今日は本当にありがとうございました。」

男性:「フライパンは、朝に洗ってから返しますね!」

そう言われて、俺はふと思った。

俺の心の声:「このまま持って帰ってもいいんだけど、この際この子が良ければ、このフライパンを譲ってみようかな? もうきっと、返すチャンスも訪れないだろうし、さっきの話しにチラッと出た彼の「じいちゃん」の事も気になるし、、、。」

と、少し言いにくいが彼に聞いてみた。

俺:「あの、良かったらそのフライパンを君が使い続けない?、、、良かったら譲り受けてくれる?」

男性:「え? いや要らないです!!! フライパンなら、家にいっぱいあるし、、、。」

俺:「、、、、。」

俺:「、、、あ、ああぁ! そうだよね! 貰ったところでだよね。(笑)」

男女:「じゃあ今日は本当にありがとうございました!」

俺:「あ、うん、それじゃあ、、、俺も久々に若い子と会話が出来て楽しかったよ。 それじゃ、おやすみなさい、、、。」

自分達のテントに戻って行くカップルを見て、かなり恥ずかしくなった。

とりあえず、眠れるか分からないが、寝袋に入って寝る態勢になり蚊帳のテント内から見える星空を、色んな気持ちが錯綜する中、ずーっと眺めていた。

キャンプ場、もとい自然の中では、虫の鳴き声や自然が織りなす「環境音」が聞こえてきてとても気持ち良い。 そうしていると、いつの間にか寝ていたようで、起きた時にはすでに朝になっていた。

木々の間から差し込む太陽の光、「チュンチュン」とキャンプ場に広がる鳥のさえずり、とても気持ちの良い朝。昨夜は遅くまで起きていたので、今朝は少し遅く起きてしまった。

ふと、目を横に向けると昨夜、料理に使った「フライパン」が置いてあった。 フライパンはきれいに洗っており、さすがは定食屋という感じ。

フライパンを手に取ると、下に置き手紙があった。

置き手紙:「昨夜はありがとうございました。おかげで助かりましたし、楽しい夜を過ごせました。 今朝、用事があるのを思い出したので、(また忘れてました(笑))早めにキャンプ場を出ることにしました。 お礼を言おうと思ったのですが、気持ち良さそうに寝ていたので、無理に起こしたら可哀想だなぁと思い、置き手紙を書かせてもらいました。 もしあれだったら家の定食屋の「店の名前」とその「住所」を下に書いてあるので、良かったらいつでも来て下さい。 その時は無料でご馳走させていただきます。今回は本当にありがとうございました。」

丁寧に書いてあるのを見て、「こちらこそありがとう、、、。」と思いながら、店の住所を見たら、どうやら町外れにあるお店みたいで、自分の住んでる地域からは少し離れている所にある様子。

少し遠いが、近いうちに行こうかな、などと考えているとキャンプ場に1組また1組と新たにキャンプをしに来る人達が来はじめた。

と共に、キャンプ場を後にする人達もいて、新たな人達によるキャンプ時間が始まっていくのを感じながら、朝食とコーヒーを済ませ、俺もキャンプ場を後にした。

キャンプ場の帰り、車の中でふと昨夜のカップルのことを思い出していると、そこから自分の息子や娘のことを思い出していた。 最近は連絡もないし、こっちから連絡をするのは少しくすぶっていたが、思い切って掛けてみようかなと思った。

でも、俺から掛けるのは変に思われるかもしれないから、妻に掛けてもらおうと、、、。

今回のキャンプで、いろんなことを感じ、考えさせられた、やっぱりキャンプは良いな。 キャンプは、キャンプや自然を楽しむのはもちろん、人との出会い、そこから生まれる物語りを経験させてくれる。

また、来週もキャンプに行こう、その時は妻も連れていくか、、、。 いっそのこと子供達も連れて行きたいが、それは少し難しい話しだな、、、。

次のキャンプで食べるキャンプ飯や使うギアのことなどを考えながら、今回のキャンプも終わった、、、。

【短編小説】 俺のソロキャンプ『後編』

終わり