ソライト

自然や旅、キャンプやアウトドアに関する事などについて、自分が感じたことや思った事などについて書いています。

山頂で飲むコーヒー「短編小説」

登山道にある展望台でベンチに座っている様子

 

僕の名前はアキラ、歳は31歳。

 時刻は朝の6時、家の近くにある木に小鳥が止まりチュンチュンと鳴いている。

僕にしては珍しく今日は早起きをした。   それもそのはずで、今日は高校生の時以来していなかった「登山」をすると決めていた。  登る山は低山で登山道もしっかりと整備されているらしく、比較的簡単に登れるらしい。

今日の為に、2週間程前からバッグや登山用のシューズを買ったりと色んな物の準備をしていた。

ちなみに今回、言ったら成人になって初の登山では、ある計画を立てている。それは

「山頂でコーヒーを飲む!」

と言う至ってシンプルな計画。だけど有意義な時間になることは間違いないと見ている。(笑)

と言うのも、僕の趣味というか好きな事の一つとして、「コーヒー」がある。

コーヒーを飲むのはもちろん好きで、しかも豆を挽くところから作るというハマりっぷり。 別にこれと言って、この豆について詳しいとか道具について知っている訳では無いんだけど、なんでも形から入るのが僕の性格で、今ではいろんな所から出されている豆や道具を使ったりして、自分に一番合ったものを探している。

そして今回、コーヒー道具も登山用にコンパクトにしないといけないなぁと思ったので、新しくコーヒーミルやポットなども買った。

そして必要な道具をバッグに詰め込み車に載せて、いざ出発。

季節は夏で今日は快晴、まさにアウトドア日和と言ったところ。 登山道までの約1時間程度の道のりは家から街中を通り、次第に山の景色が広がってくる感じの道を行く。

車の中、時刻は7時過ぎ、普段はこの時間帯に車に乗ることがないので、街の様子は通勤時間もあってか少し騒がしい。 信号が赤に変わり車を停車して周りを見ると、他の車の人の顔が少し浮かない顔をしている様子、僕だけが少し浮かれている感じになって、変に浮いていた、、、。

ん? この感じは僕が通勤している土曜、日曜の雰囲気と真逆の感じになっている?
僕は基本的に土曜、日曜を含んでの仕事なのでその日は少し憂鬱、9時ごろ通勤途中で周りの車を見ると楽しそうな家族やカップルをよく見る。

なるほどなぁと、普段は楽しそうにしている人達も仕事の日、特にこの通勤時間は僕と同じような感じだったんだなぁと思い、変に他人のことを短に感じてしまっていた。

この感じが世の中から無くなって、みんなが笑顔あふれる感じになると良いのになぁと、ふと思う。

ということがありつつ、車を走らせていると景色が緑色に染まった山に変わって来た。アウトドア感溢れる景色にさらに気持ちが高揚していく。

そして登山道入り口と思われる前の駐車場に着いた。

周りを見ると、さすが平日と言ったところ、数台しか車が止まっていない。これから堪能する自然をほぼ貸し切りと言った状態だ。

車を停め、登山用のシューズに履き替えてから、バッグを背負い、いざ出発する。 かすかにバッグの中でコーヒーを作る為のセットがお互いに当たっているのか、「カチャ、カチャ」と言う音がする。 この音もまた良い感じの音に聞こえてくる。(笑)

そして生い茂る木の中にちょっとした道筋が見える、おそらくそこが登山道だなぁと思い近づいて行くと、長さはおよそ100センチと言ったところか、木の枝が数本まとめて置いてあった。 その木の枝が置いてある上の方を見ると

「ご自由にお使いください」との文字が。

瞬時に「あぁ!登山の時に歩きやすくとか、体を支えるのに使う棒か!」と思って、結局は棒は使わないんだが、その誰かが誰かの為にしてくれている事の優しさに僕の心が支えられた気がして、穏やかな気持ちになった。

そして、アスファルトの地面から土へと変わる登山道の地面に足を踏み入れる。

一歩、また一歩と足を進めて行くごとにより感じる、土の地面の柔らかさと言うか、アスファルトの足に直に来る反発感がほとんど無くて、心地良い。

まさに自然と言う大地を歩いていると言う感じがこの上なくたまらない。

そして数メートル歩いてふと顔を上げるとそこには、木々が生い茂るなんとも幻想的な風景が広がっていた。

いつもはコンクリートジャングルに囲まれて生活しているが、ここは緑がいっぱいで鳥やセミの鳴き声の大合唱が繰り広げられている大自然の場所だった。

気のせいか、吸ってる空気もいつもより美味しく感じられる。

家から小一時間のところに、こんなに良い場所があったのかと今まで気付かなかったことに、僕は少し後悔すら覚えた。

とりあえず、歩みを進めることに季節は夏なので、多少暑いが木々が良い日陰になってくれているので幾分か涼しい。

そしてただひたすら、前を見て歩みを進める。

すると、今までは緩やかな道が続いていたが、ここから急な上りになった。

「うわぁ、キタァ、、、。」

と思わず言葉が漏れた。 正直ここまでスイスイとこれたけど、いつかキツイ上りが来るんだろうなぁと思っていて、実際に目の当たりにするとおもわず足が止まった。

でも、もちろん引き返す事などはせずに気を引き締めて、足を上げ、一歩また一歩と急な上りを進んで行く。

登るにつれ、少しずつ身体が火照ってきて、じんわり汗もかいてきた。

ひたすら登る、一歩また一歩と。
「はぁ、はぁ」少し息も切れて来た。急な上りを歩き始めて8分ほど、登山道入り口から合わせたら約20分は経ったか?

急な上りもようやく終わり、また緩やかな上りに変わった、と同時に少し開けた場所に出た。 さっきまでは木々が生い茂っていてそこまで青空は見えなかったが、ここに来て急に天に広がる青空と眼下に広がる緑と遠くに見える街が見えて来た。

急な上りの直後で疲れもあってか、その壮大な景色に、より感動を覚えた。

もうなんだか、ここで山頂に到着した気分になった、、、が、まだ道のりは続く。 けどひとまずは、ここで少し休憩をと思いバッグの横に入れている水筒を手に取って、グビグビ飲んだ。 口から入ったスポーツ飲料水が乾いた口に潤いを生み、そして喉から胃に入っていく感じが分かった。

「あ!そういえば今日、朝飯を食べていなかったんだ。」

飲んだ後、胃の中で僅かに飲料水の冷たさを感じたので、ご飯を食べていない事を思い出した。 一応、朝におにぎりを握ったので持って来てはいるんだけど、「ここで食べるのはまだ早いよなぁ」とかそんな事を考えながらしばしの休憩を取っていた。

すると、上から歳の頃はおよそ60〜70歳の夫婦が下りて来た。 シューズやバッグ、服装がいかにもと言った感じで軽快に下りて来て、「こんにちは〜」と軽いあいさつを交わした。

僕は「ほぇ〜、元気だなぁ」と思い、僕もまだまだ負けてられないなと、何と勝負しているのか分からないが、バッグを背負ってふたたび歩みを進めた。

少し開けていた場所からまた、木々が茂った景色の中に入って行く。

それにしても歩いている途中で、度々現れる「山頂まで、あと〇〇メートル」と言う看板だが、これは優しさで立てているのか、何なのか正直分からないんだけど、確実に言える事は僕にはこの「山頂まで、あと〇〇メートル」と言う文字が苦痛でしかない。(笑)

この看板を見る度に、「え!? まだこんだけしか進んでいないの!?」と言う感じになって、少し落ち込む。(笑)

けど、めげずに更に歩みを進める、アップダウンを何回か繰り返し、また急な上りも出てくる。 普段運動をしないのでけっこう足にくるなぁ。

そしてまた例の看板が、、、。

「まただぁ」と思ったが一応看板を見ると、その悪魔の看板も少し優しさを覚えてくれたのか「山頂まで、あと100メートル」という文字が。

そこまでは確かに疲れていたが、あと100メートルという文字を見て、元気が出たのか少し足が軽くなった気がした。

そこで僕は気付かされた、この「山頂まで、あと〇〇メートル」という看板は、最初の内はわざと「山頂まで、”あと2キロメートル”」とか言って、山頂まで行く事の厳しさ、道のりの長さを登山者に知らしめておいて、けどその言葉にめげずに頑張った登山者には”あと100メートル”とか言って、ちゃんと頑張りを褒めて挙げている、、、。

「ん?僕は何を言っているんだ?」

とりあえず、妄想を見ないで現実を見ることにし、先に進んだ。

いや、ホントそうで「あと100メートル」なんて優しさはただの妄想!
歩いても歩いても中々、山頂に着かない。
100メートルがこんなに長く感じた事は無い!

最初は軽く感じていた、バッグもここに来て重く感じて来た。

汗がひたいを垂れ、「ゼェ、ゼェ」と息も切れている。ここまで登って来ると、夏だなぁと感じていた、セミの鳴き声も少なくなってきて、数匹の鳥の鳴き声が響くだけ、風も無いので木々が揺れ動く音もしない、そこには息を吸っては吐く自分の呼吸音と、かすかに聞こえるドクン、ドクンと言う心臓の音、なんか久々に無我夢中になって歩いている自分と向き合っている感じがした。

一歩、、、また一歩、、、。

着実に山頂に近づいている、そう自分に言い聞かせ歩いて行く。普段の仕事はただ任された事を淡々とこなす作業で特に難しこともしない。 でも今日の僕は、誰かに任された事をしている訳では無く、自らの意思でしようと思った事に真っ正面から向き合っている。

「僕は今頑張っている!」

そう思いながら、頑張って残りの道のりを歩いていると、後ろからさっそうと登って来る、おそらく僕のお爺ちゃんと同じくらいであろう、お爺さんがあっという間に僕を抜かして行った、、、。

お爺さんは、すれ違い様に全然疲れた様子も見せず、笑顔で「お!? こんにちは!珍しく、若い登山者だなぁ、頑張れ!」と言って、どんどん進んで行った。

そのお爺さんの感じを見て、「僕の頑張りって一体、、、。」と思わされた。(笑)

すっかり落ち込んだ感じになって下を向いていたが、ふと顔を上げるとそこには「山頂に到着です。お疲れ様でした。」と書いた看板があった。

正直メチャメチャ嬉しかったが、ここまで約1時間半ほど歩いて来て、さすがに疲れもあって素直に「やったー!到着ー!」といった感じにはならなかった。

でも、どんな景色が見れるんだろうと、少しワクワクしながら進むと、

、、、ん? けっこう木が伸びていて何も見・え・な・い?、、、。

すると、さっき僕を抜かして行った、お爺さんが「もうここは、ずいぶん前からこんな感じだよ! 今ではトレーニングがてらこの近くに住んでいる「おじぃ、おばぁ」が、登りに来るくらいだよ」と、、、。

それを聞いて僕は、「あぁ、だからさっき ”珍しく、若い登山者だなぁ” 」って言ったんだなぁと分かった。 そんなことを言ったお爺さんは、到着したばかりなのにもう下山を始めた、「じゃあねぇ〜」と言い残し。

一人取り残された僕はもう一度あたりを見渡した。 山頂から見える景色は、伸びきった木が360度囲んでいてその真上に広がる青い空のみ、、、。 絶景だと思っていた景色は見れなかった、、、。

だけど何だろう、決して景色は良くないが、ここまで頑張って登って来て、到着した時の嬉しさや、さらに言えば登っている時に自分と向き合ったことは、最近ではしてこなかったことで、そこに関してはものすごく充実感を味わえた。

、、、と、ここでなんか終わりな感じもしてきているが、今回の1番の目的は「山頂でコーヒーを飲む」と言うこと、、、。

「チュン、チュン(鳥の鳴き声)」、、、。

すっかり背中の汗で濡れたバッグを下ろし、ちょうどベンチがあったのでそこに座ることにした。 さっき食べようか迷っていたおにぎりを出し、包んでいるラップをはがして、おもむろに一口ほおばった。

「美味い!」

二口目もすかさずいく。 すると、具として入れていたサケフレークに到達するんだが、これがまた美味しい!

あまりにも美味しくて、2つおにぎりを持って来ていたんだがあっという間に食べ終わってしまった。 で、ここで分かったことが一つある、おにぎりにはスポーツ飲料水はあまり合わない、やっぱりお茶が合う、、、と。

時刻は10〜11時ごろ、木々によって隠れていた太陽も、だいぶ上がって来て山頂に光をもたらす。 日陰で少し涼しかった山頂も、より夏の暑さを感じる様になってきた。

「よしっ、コーヒー作るか!」

僕はこの日の為に新たに買っておいた、ミルとポットとアルコールストーブを出した。 新しい物とはいえ、今までこういった道具をたくさん使って来たので使い方には苦戦せずなんなくとアルコールストーブにも火を付けることができた。

そしてポットに水を入れストーブに載せる、沸くまでしばし待つことに、、、。

アルコールストーブの決して勢いのある火の出方では無い感じ、ゆらゆらと揺れる火の感じが良い。

自然の中は本当に静かで、いつものコンクリートジャングルのいろんな音が混じりあった生活圏とは大違い。 、、、でもたまに飛行機が頭上を通っていく音がして、その時だけ現実の戻される。

僕は、飛行機に対して、「せっかく良い気分になっているんだからそのままにさせてくれよ」と、少し怒りそうになったがそんな事を考えていると、グツグツとお湯が沸いてフタもカタカタとなっている、まるでポットも怒っているかの様だった。(笑)

いやぁ僕も小さい男だなぁと思い、心を改める様にミルの中にコーヒー豆を入れて挽いた。

ガリガリガリガリ」 静かな山頂で豆を挽く音が響く。

ガリガリガリガリ」ひたすら挽く。

「チュンチュン、ピー!ピー!」、、、と豆を挽く音に反応したのか鳥が鳴いている。

そしてドリッパーに紙フィルターをセットして、挽いた豆を入れる。 ちなみに僕は「中煎りのコロンビア豆の中細挽き」が好みだ。

、、、と、準備をしている内にお湯もちょうど良いくらいの温度になった。

そしてここからが集中するところ、まずは一気にお湯を入れず挽いた豆を蒸らす為に、少しだけお湯を入れる。

泡が立ち膨らむ、、、。 そして20〜30秒蒸らしたら、3〜4回に分けて螺旋状にお湯を注いでいく。 豆を挽いた直後に香る匂いも好きだけど、このお湯を注いだ時に香る、少し水分が混じった感のある香りも好きだ。

感じとして、豆を挽いた直後は、乾燥してツンとする匂い、一方でお湯を注いだ時は湿りっ気のあって苦味のある匂いがする。

「ポタッ、ポタッ」と抽出されていくのを見て、ゴクリと唾を飲んだ。

そして抽出されるのを全部は入れず、少し勿体無いが途中でドリッパーを外し、いつも家で使っているマグカップにコーヒーを入れる。

そしてまたこの時に香るコーヒーの匂いも好きだ。

時刻は11時ごろ、朝7時前に家を出てからようやくコーヒーにありつけた。
ゴクッと飲む、、、。

「うん!美味しい!」

心なしか家で飲むコーヒーも勿論おいしいが、自然の中で飲むコーヒーはさらに美味しく感じる。

山頂という自然の中、ゆっくりとした時間が流れるこの時を、さっき最後まで抽出しなかった、コーヒーを最後の最後まで抽出するかの様にこの時間を堪能して今日の目的は達成したと共に、少し自分が成長したかな? と最後は頑張った自分を褒めてあげ、ベンチに横になってしばしの昼寝をすることにした。

、、、そして、まだこの時の僕は「下山」と言う、最初は気持ちも上がっていて山頂に行くと言う目的があるので幾分楽だが、登る時の高揚している気持ちが無い時の下山と言うキツイ思いをする事を知らずにいた、、、。

終わり